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"此処ハ現実デハ無イ"
と、誰かが言った・・・
『誰か』とは、俺だと言えば、俺。
違う、と言えば違う。
頭の中に棲息している、多分『俺』。
時々、頭の中を徘徊しては独り言のように呟いては、去って行く。
鬱陶しい時もあれば、その『俺』との会話が愉しいと感じる時もある。
意外な言葉が返って来る時もあるからだ。
大抵は、何故、今、そう言う事を言い出すのだろうと不思議に思う事の方が多い。
ソイツは脈略もなく一方的に呟き続け、俺の思考を分散させる。
分散した思考は切れ切れになって散らばり、端から零れ落ちる。
拾い集めるのが大変だ。
大事な事を考えている時とか、数式を解いている時、特に眠りに溶け込む時には、かなりの多大な迷惑な奴だ。
眠たいのに頭の中で呟き続けて、気になって眠れやしない、なんて時には捻り潰したくなる。
まぁ、頭の中に巣くっている奴を追い出せる訳でも無いので、放っておくしかないのだが。
その『俺』が、「此処ハ現実デハ無イ」と言った。
では?
此処は何?
現実では無いのなら、何処に現実はあるのだろうか。
リアルに生きている俺は何処に居るのだろうか。
黄色い小さなボールを追い駆け、白い枠の中に返す。
唯、此れだけの事をしている俺の、思考、計算、視覚、聴覚、触覚、全身の筋肉、急増な動機、困難な呼吸、絶えず流れる汗・・・全部は幻、イメージだけのモノだろうか。
しかし、『此処ハ現実デハ無イ』と言う言葉は、ひどく現実味を帯びていた。
此処は現実では無い。
イコール、非現実な現状に存在している俺。
俺にとって其れは、あたかも至極当然であるように肯定した。
―― 此処は現実では無い。
なんてリアルな言葉なのだろうか。
実際、俺は物心付く頃から、言い難い他との違和感を常に感じていた。
言葉を理論立てて思考出来る頃になると、益々違和感は強くなり、自分はパラノイアであり、本当は他とは別の所・・・例えば異世界、例えば並行世界、に存在しているのでは。
或いは人間では無い何か・・・例えば幽体、例えば地球外生命体、ではないか、と常日頃考えるようになった。
両親も姉も従兄弟も友達も、自分以外の世界に在るモノは、何故か輪郭が不鮮明であった。
フィルターでも掛かっているかのように、薄ぼんやりとしか認識出来ない。
いや、俺の存在自体、不鮮明であるのかも知れないが。
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