非現実的なモラリスト

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テニスは好きだった。 何もかも曖昧な輪郭しか存在しない俺の世界で、少し其の事を忘れられる事が出来たからだ。 父親の仕事上、東京に越して来なければいけなかったのは多少煩わしかったが、新しい学校はテニスが強いとの噂で、俺は少しだけ関心を持った。 だが、この曖昧な輪郭でしかない違和感が取り巻く世界である事は変わりないだろう、と思っていた。 入学式の日、新入生代表で壇上に上がった一人の少年。 ライトが爛々と照らされている訳でも無いのに、其の少年は何だか眩しく感じた。 其の時、頭の中の『俺』は「アノ少年ニハ関ッテハ駄目ダ」とはっきり言った。 何時も呟き程度のモノだったのに、その言葉は俺に言っているものだと解った。 あんなにはっきりと話しかけられたのは初めてだった。 俺は「何故そう思う?」と聞くと「アノ少年モマタ異質ダカラダ」と言った。 「異質なモノなら俺と同じではないか」と言うと「関ワルナ」としか返って来なかった。 「兎ニ角、関ワルナ」と。 初めてあの少年のプレイを見た時、少し憧れた。 もう既に洗練されたプレイヤーだった。 其れを予見してあの時、眩しく感じたのだろうと思った。 だからそう感じただけだ、と思った。 二年になる辺りからは何とか追い越そうとした。 三年に上がる前ぐらいからは、あの少年は常に俺の前に行く者だと理解した。 その頃から"憎しみ"と言うモノが俺の中に産まれ堕ちた。 .
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