川島 誉(カワシマ ホマレ)

2/11
前へ
/12ページ
次へ
チラリと掛け時計に目を遣る。 時刻は19時になろうとしている。 もうすぐあの人が来る。 あの人が初めて私の店に来てから3ヶ月。 平日は欠かさずにこの時間に、いつも決まった席へと座る。 そしていつも注文するのはアイス珈琲で、最近では注文する事なく、勝手にあの人の前に差し出す。 それがお決まり。 ――カランコロン ドアが開きベルが鳴る。 そしてあの人が、真っ直ぐにいつもの席へと座る。 「いらっしゃいませ」 そう言いながら、掛け時計を見ればやはりいつもの時間。 私はあの人に分からない様に、アイス珈琲を準備しながらクスリと笑った。 そして、出来上がったアイス珈琲をコースターに乗せ、前に差し出す。 名前も年も何も知らない常連客。 私はこの人に恋している。 いつから? と、聞かれたらハッキリとは分からないが、きっと、あのドアを開けて、店に入って来た時からだろう。 人生で初めての一目惚れ。 合う度に惹かれていく。 あの人の事を何も知らないくせに……。 .
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加