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多分サラリーマンだろう。
この辺りはビジネス街で、昼時になればOLやサラリーマンが昼食を食べに来店する。
それに、あの人のスーツを着こなす姿は見惚れる程だ。
でも見て分かるのはその位で、それも当たっているかさえ分からない。
カチャカチャと閉店準備をしながら、あの人を盗み見る。
どうも最近、様子が可笑しいと感じるのは気のせいだろうか……。
「どうか……されましたか?」
つい、ポロリと口から零れた。
あの人が戸惑っている。
やはり立ち入る内容じゃないか……。
「あっ、済みません。
私が立ち入る事じゃありませんよね」
客とマスターじゃ話せる訳がない。
「俺……今、好きな人が居るんです」
あの人がポツリと呟くように言った。
「そのお話し、少し待ってもらえますか?」
私はそう言って、片付けを一旦中断し、店の外へと出た。
――好きな人が居るんです
確かにそう言った。
胸が痛い……苦しい……。
立ち入るんじゃなかった。
今更ながら自己嫌悪に陥った。
しかし言った手前、話しを聞かない訳にはいかない。
私は電光看板を店内に仕舞い、ドアに掛けてある札を“close”に返し、カーテンを引きカウンターに再び戻った。
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