川島 誉(カワシマ ホマレ)

3/11
前へ
/12ページ
次へ
多分サラリーマンだろう。 この辺りはビジネス街で、昼時になればOLやサラリーマンが昼食を食べに来店する。 それに、あの人のスーツを着こなす姿は見惚れる程だ。 でも見て分かるのはその位で、それも当たっているかさえ分からない。 カチャカチャと閉店準備をしながら、あの人を盗み見る。 どうも最近、様子が可笑しいと感じるのは気のせいだろうか……。 「どうか……されましたか?」 つい、ポロリと口から零れた。 あの人が戸惑っている。 やはり立ち入る内容じゃないか……。 「あっ、済みません。 私が立ち入る事じゃありませんよね」 客とマスターじゃ話せる訳がない。 「俺……今、好きな人が居るんです」 あの人がポツリと呟くように言った。 「そのお話し、少し待ってもらえますか?」 私はそう言って、片付けを一旦中断し、店の外へと出た。 ――好きな人が居るんです 確かにそう言った。 胸が痛い……苦しい……。 立ち入るんじゃなかった。 今更ながら自己嫌悪に陥った。 しかし言った手前、話しを聞かない訳にはいかない。 私は電光看板を店内に仕舞い、ドアに掛けてある札を“close”に返し、カーテンを引きカウンターに再び戻った。 .
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加