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―1週間前 渋谷駅前
時刻が夜に差し掛かり、数多くのネオンが点灯し始めた頃。
そのネオンたちとは明らかに違った色質を、交通整理灯が放っていた。
行き交う人々を尻目に煌々と光るその色は、まるでその場所が特別な意味を持っているということを必要以上にアピールしているようだった。
―警察官
「下がって下さーい。」
「交通の妨げになりますので、速やかに渡って下さーい。」
―通行人A・Bの会話
「えっ?何々、何が起きたの?」
「なんでも、女子高生が何人も死んだらしいよ。」
「うそ?通り魔か何か?」
「いや、そこまでは知らないけど。恐くない?」
―通行人の会話C・Dの会話
「うわぁ。警官マジ多くない?」
「うぜーな。ってか、こんなに警官っているんだ。ってか、今他の場所は誰が守っているんだかって感じがするけどね。」
―警察官
「下がって下さーい。」
「そこっ、死体が見えないようにもっとシートをしっかり被せろ。これだから新人は。」
おいおい勘弁してくれよ。なんだ、この騒々しさは―
現場に到着して真っ先に感じたことだ。
俺があの日、事件の連絡を受けて至急駆けつけた場所は、渋谷駅前のスクランブル交差点だった。
土曜日の夜ということもあってか通行人の数はとても多く、その一人ひとりが日常とは異質なその雰囲気に少し興奮しているように感じた。
外から来た俺がその場を客観的に例えるならば、死んだバッタの死体に群がる蟻たちってところだ。これでどれくらい騒々しいか伝わったかは微妙だが―。
とはいえ、いつの日もクールな輩はいるようだ。そんな輩は顔つき一つ変えず、現場をチラっと覗き込みはするが、興味が無いようにそそくさと交差点を渡っていく。
中にはあからさまに怪訝な顔つきを見せる者や、必要以上に死体を見たがる者もいる。
と、俺がスクランブル交差点の一端から人間観察をしていると、一緒に来た中村が現場の方向に指を指し行きましょうか?と合図を送ってきた。
その合図に軽く会釈で返事をして、二人は現場に向かって歩き始めた。
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