一日目

13/37
前へ
/39ページ
次へ
「今日も一日がんばりましょう」  振り向くと、取って付けた微笑にワイパーみたいに左右に振られる手が飾られている。どうしてそこまで気を遣うんだ? 中学の時が後ろめたいのか? たぶんそうだろう。  高校の入学式の時、里美はこう言った。まだ沙希姉と張り合って髪を長く伸ばしていた時期だ。髪が伸びる日本人形みたいといじめられた時期でもある。 「私と一緒にいたら香平くんに迷惑でしょ?」  そうかもしれない。 「だからね、学校では他人のフリをしようよ」  笑って言うことじゃないだろ。 「ほら、だから先に行って。ね」  あの時、おれは承諾してしまった。中学の時に懲りていたのだろう。いじめられるのに。  それを今は後悔している。あんな想いをするなら、里美のそばを離れず入学式に向かえば、動こうとしない足に意思を伝達する。手を振り返すとおれは走った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加