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私はここでようやく気付くことができた。これは夢であると。体は私の意志に関係なく動き、覚えの無いマンションのある部屋を目指している。これはきっと私が想像した夢なのだろう。それなら逆で私が待っている側だと思うが、まぁ夢だからどうでもいいでしょう。夢の中で夢だと認識することを明瞭夢って聞いたことがある気がする。
と、考え込んでいるといつの間にかエレベーターに乗っていた。中に入ると全体像が映るほど大きな鏡が置いてある。それに映るのは知らない青年だった。社会人に成り立てのような初々しさを感じさせる顔立ち。急いで歩いてきたせいで頬はほんのり赤く小さく肩を上下させていた。
どういう夢なんだろう?
香平くんはこんな顔じゃないし、お姉ちゃんには彼氏はいないし。何をテーマにしているのかさっぱりわからなかった。
青年は大きく息を吸い吐くと、振り返ってエレベーターのスイッチを押そうとする。が、しなかった。青年の目が瞬き、肩を硬直させる。後ろには黒いコートを羽織った誰かが立っていた。顔はフードで隠されており、性別がわからない。
青年の口が動いた。
「何だ、お前か。どうしたんだよ?」
これが知り合いなの?
私はその黒いコートがしゃべるのを待ったがしゃべることはなかった。それでも青年は会話を続ける、肩から力が抜け警戒しないところを見る限り知り合いのようだった。しかし、青年が大きく息を吐くと。
「どうしてここに来た? 話は終わったはずだ」
言葉に力がこもり、鏡越しで黒いコートを睨みつける。それでも黒いコートから声は聞こえなかった。しゃべれないのだろうか? いくら知り合いでもだんまりに嫌気がさしたのか青年は黒いコートに体を向ける。そこでエレベーターは閉まった。押された数字は十。エレベーターはその階を目指して上昇していった。
コートの下から刃渡りが十五センチはあろうと思えるナイフがちらついた。もしかして……刺される!?
「悪ふざけはよせ……よ」
青年を刺すことに躊躇は感じられなかった。銀色に光る刃が血で赤く塗られていく。
う、嘘……だよ、ね? だってこれ、夢でしょ? なのに何でこんなに痛いの?
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