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私は生きていた。ちゃんと部屋の天井を視認できる。それでも私の指は目の存在を確かめた。ちゃんとある。当たり前だ、夢なのだから。夢で目や命を失うなんてホラー映画くらいしか聞いたことがない。廊下からドタバタと慌てた足音がする。
「さ、里美!?」
部屋に転がり込んで入ってきたのは、寝癖で髪の毛をハネさせ、朝なのに寝ぼけ眼ではないお姉ちゃんだった。お姉ちゃんが部屋の中央まで歩いてくると体が勝手に抱きつこうとした。それを理性で押さえつける。
怖い、足が震える。怖い、布団を握る手が震える。怖い、嫌な汗が背中に流れる。怖い、頬が引きつりそうになる。怖い、心臓の鼓動で体が揺れる。
「どうか、したの?」
一泊置かないと声が上手く出せそうにない。屈みこんで私の顔を覗くと頬に手を添え優しく撫でてくれる。それはとても暖かく心が安らぐけれど……ダメだ。私は何をやってるんだ。心配させてしまった。抱きつきたい。駄目だ! 泣きたい。駄目だ! 手を握ってほしい。駄目だ! これ以上、お姉ちゃんに迷惑を掛けたくない。
だから私は足の震えを止め、布団を握るのを止め、汗が流れるのを止め、心臓で揺れる体を止め、笑った。上手くできているだろうか。いや、できているはずだ。あんなに練習したんだ。できてないはずがない。
「ごめんね、起しちゃって」
「何か怖い夢でも見たの?」
「そんなところかな。でも、もう大丈夫だよ」
本当に大丈夫だよ。あんなのたかが夢だもん。だから怖くないよ。心配しなくても平気だよ。なのに何でそんな悲しい顔をするの?
何が悲しいの? お姉ちゃんはもう悲しまなくてもいいんだよ。もうこれ以上、迷惑なんて掛けないから。
「そう、でも何かあったら言いなさい」
「わかった」
わかった、もちろんしないよ。
私の頭を撫でるお姉ちゃんの手に宿る熱が私の涙腺を刺激する。このままじゃ泣いてしまう。
「起しちゃった罰として今日の弁当は期待してていいよ」
「……ええ」
笑顔を貼り付けたまま、私は台所に向かった。
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