一日目

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 今朝のこともあって弁当には細部まで趣向を凝らしてみた。作っている最中に香平くんのことが頭に浮かんだ。今日も昼食はパンなのだろうか。香平くんの分も作りたい。でもそれは駄目だ。受け取ってもらえるとは思う。けど、彼の心に負担をかけてしまうかもしれない。だっていつも私に会うとつらそうな顔をするから。 「いいお嫁さんになれるよ」  蓋を閉じようとしたらお姉ちゃんにひったくられた。嬉しそうに微笑んでいる。 「お姉ちゃんが早くお嫁さんになりなよ」 「むむ」  私と八歳も本当に離れているのだろうか? と思うくらい、お姉ちゃんの怪訝な顔は幼かった。貰い手ならいくらでもいるだろうに。 「その前に相手を見つけなくちゃね~」  軽く額にデコピンされた。昔から分が悪いことを言われるとこうやって誤魔化す傾向がある。お茶目なのか、単にやり返しのつもりなのだろうか。今までの長い付き合いの中、出た結論は半々といったところ、である。  きっとお姉ちゃんは私が独り立ちするまで付き合いすらしないだろう。あの日以来、お姉ちゃんに彼氏ができたことがないから。 「じゃ、いってきま~す」 「いってらっしゃい」  荷物を持って敬礼したお姉ちゃんは玄関から出るとすぐに帰ってきた。 「おかえり」 「ただいま、じゃない。いってきます」  今日の忘れ物は車のキーだった。後ろ手で私に手を振って玄関を出ていく。戻ってこないということはもう忘れ物はないのだろう。  静かになった。上からは足音がしない。時間帯からして今日は早起きでもしたのだろうか。それならお邪魔しに行こうかな。会いたい。しゃべりたい。顔が見たい。横に並びたい。だって学校ではそんなことできないから。したら迷惑が掛かる。中学校の時の二の舞は嫌だ。
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