無邪気な痛み

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「バイ菌は学校くんじゃねーよ! ばーか。へいパース」 「うわっ! バイ菌が移った! 気持ちわりぃー」 4―2と書かれた教室を、赤色でキャラクターの描かれたかわいい筆箱が人から人へと宙をまう。 「返して! 昨日お母さんに買ってもらったの!」 半泣きになりながら筆箱を追う幼い少女。ツインテールの髪がふるふると揺れる。 彼女の名は御手洗さくら(みたらし)。引っ込み思案でおとなしい女の子。彼女は名字が御手洗い、つまりトイレと呼べることからクラスのいじめのターゲットにされてしまっている。 「あっ…」 筆箱が開いていた窓から外に飛びだし、地面へと激突する。4階の高さから落ちた筆箱は激しい音をたてて壊れてしまった。 「あーぁ、俺しーっらね。行こうぜ」 いじめの代表格、萩原悟(はぎわらさとる)は笑いながら仲間と走り去っていく。 「……ふ…ぇ…えぇぇぇぇん!」 ぺたんと膝をついて泣きじゃくるさくら。だが、誰も彼女を慰める者はいない。むしろそんな彼女を見下し、くすくすと笑みを浮かべる者達がほとんどだった。 その日を境に彼女は家に閉じこもってしまう。 担任や両親が説得を試みるも、全く無駄だった。 彼女は心を深く閉ざし、人間不信に堕ち、世を恨んで成長していった。
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