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「悟ー、はやくこいよぉ」
「おう!」
萩原悟は中学校で野球部に入り、毎日を部活についやし、思いっきり青春していた。
チームメイトからも評判がよく、クラスのムードメーカー。誰も彼を恨む者はいなかったし、彼もまた誰にも壁をつくらずに全員に陽気に接していた。
「あぁ~疲れた。じゃあまた明日な」
部活が終わり、そそくさと自転車にまたがる。帰りはいつも1人で帰りたい派だった。今日も例外ではない。
すっかり暗くなった道を軽快に走る。
―ギャコ
突然妙な音が響き、ペダルをこいでもまるで前に進まない。
どうやらチェーンが外れたらしい。
家まではまだ15分はかかる。
「あーもう! このポンコツが!」
腹立たしげに自転車を蹴り、しぶしぶと自転車を押して帰る。
「萩原悟」
急に名前を呼ばれ振り向く。電柱の陰からこっちを見る妙な男。
こういう奴には関わらないほうがいいと思い、無視して歩きだす。
「萩原悟、御手洗さくらを知っているか? 彼女の依頼によりお前に゙痛み゙を与える」
足を止める。
「あぁ!? やってみろよ! けんかなら買うぞこら!」
ただでさえいらいらしてるのに、妙ないちゃもんつけやがって。
「……くく、痛みを与えるのは私じゃない。せいぜい苦しむがいい」
男は笑いながら闇に溶けていった。そこには初めからなにもいなかったように影もなかった。
―カシャン
何かがハマる音が響く。自転車のペダルをこぐと、前よりも軽快に進んでいく。
気味が悪くなり全速力で家へと帰る。
風呂に入り、布団を頭から被り眠りにつく。
夜のうちには特に何かがおきることはなかった。
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