第一章

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『高田千春』 泥よけにでかでかとマジックペンで書かれた自分の名前に苦笑する。 ―いくらなんでも自転車に名前は書かない。 千春は心の中でつぶやきながら バッグから自転車の鍵を取り出した。 鍵を差し込もうとすると、後ろから声がかかった。 びっくりして振り返る。 「ちはる!一緒に帰ろう?」 首をすこし傾けて、「おねがい」と可愛く千春の顔を覗き込む男。 クラスメイトであり、幼なじみの、『加藤隆太(かとうりゅうた)』だ。 なじみが深いということを差し引いても、イケメンの部類に属することを千春は知っている。 幼稚園、小学校、中学校。 一緒に過ごす時間が長いだけに、それだけ隆太をめぐる争いは誰よりも多く見てきた。 ワガママで頑固でだらしない。 この男のどこがいいのか、千春には理解しがたいが、時折見せるこの上目遣いは結構カワイイということだけは認める。 「うん。帰ろう」 千春は自転車の鍵を開けて隆太にそう言った。
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