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次のホームに止まった電車に、パラパラと人が乗り込んで来る。
風で舞い上がった髪を撫でながら、望は窓から視線を外すと、前に向きなおった。
朔が見えなかった。
いなくなった訳ではなく、乗り込んで来た人が望の前に立ち新聞を広げていた。
小さくため息をつくと、仕方なく、再び窓に視線を戻した。
「…すんません。」
ふと、すぐそこで朔の声がしたと思った途端、
ドサッ
「わっ!な、何?」
朔は望の隣に腰掛けると、足と手を組んで目をつぶった。
な、なんなのっ急にっ
望が突然の朔の行動に、赤面しながらオロオロしていると、新聞を広げていた男は、小さく「ちっ」と舌打ちして去って行った。
なぜ、舌打ち?
私、何かした!?
頬を膨らませながら、横に座って来た朔に視線を送ると、
薄く目を開けた朔が新聞の男の姿を冷ややかな視線で追っていた。
望は、膨らませていた頬の空気を抜くと、
「…何?ヤクザ?」
呆れた表情をする朔は、ゆっくり望に視線を送った。
「…あんたって本当、アレだね…。」
「何よ。」
「…しっかりしたように見える無防備鈍感。」
ナニソレっ!?
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