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「ある雪の夜、この店に一組の男女がやって来ました。男の方には妻も子供もいます。それでもお互いを求めあえずにはいられず、密会を重ねていたのです。そして、その夜もいつものようにこの店にやってきたのです。
しかし、その夜、女は男に別れを告げなければなりませんでした。仕事の都合で遠方に赴任することになってしまったのです。
女は私に甘くてほろ苦いカクテルが飲みたいといいました。私はそんな男と女の状況とその心情をこのカクテルに込めました。どこまでも甘く、そして苦いそのほんの一時の情事に対する思いをこのカクテルに詰め込んだのです」
マスターが語り終えると、百合は舐めるようにカクテルを飲み、それから僕の方に視線を向けることもなく言った。
「まるで、あなたと美貴さんのようね」
僕が驚いて百合の方を見ると、百合は氷のように冷たい微笑みを浮かべながら僕を見ていた。
(完)
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