カクテル

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そんな僕たちを、マスターは見て見ぬ振りをしながら、アイスピックで氷を砕いている。 だけど、マスターがときどき横目で僕たちの様子を観察していることを僕は知っている。 これまで僕と美貴は、ずいぶんこの店に足を運び、多くの会話をしてきた。 だからマスターは、僕と美貴との関係を知っているのだ。 そして、おそらくそれが彼にとって、ひどく興味深いものなのだろう。 もちろん、それは僕の勝手な想像であり、マスターは僕たちのことに関して、何の興味も持っていないのかもしれない。 むしろ、このような店に僕たちのような客がやって来るのは珍しいことではないだろうから、僕たちに何の興味も持っていないと考える方が、よほど妥当なのかもしれない。 僕は胸のポケットからタバコを取り出して口にくわえ、ずいぶん長い間使っているジッポのオイルライターで火を点けた。 タバコの先から立ち上る紫煙が辺りに広がり、ピース特有の甘い香りを辺りにまき散らす。 だけど、タバコの嫌いな美貴は、睨みつけるような目で僕を見ている。 「ごめん。一本だけだから、許してくれないか」 僕は美貴に詫びた。 「いいわよ。気にしないで」 美貴はそう言って、ニコリと優しげな微笑みを浮かべるが、笑っているのは口元だけで、目は決して笑っていない。 仕方なく僕は、まだ二口しか吸っていない長いタバコを灰皿に押しつけて火を消した。 すると美貴の目が、今までよりも少し和らいだ。 それは僕の気のせいなのかもしれないけれど、少なくとも僕の目にはそのように映った。 美貴は小皿の中からカシューナッツを1つ取り出すと、今度は口を大きく開けて、それを放り込んだ。 「ねえ、それよりも、奥さんの方は大丈夫なの? 何と言って家を出てきたの?」 「嫁は大丈夫さ。大事な会議があるから、今夜は戻れそうもないと伝えてある。単純な女だからね、僕の言うことを少しも疑いはしない」 「だったらいいのだけど」 美貴はそう言うと、2つ目のカシューナッツを口に放り込んだ。
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