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翌日、僕は約束通り、百合を連れて、あのバーに出向いた。
扉を開けて中を覗くが、三年前と同様に客のいる様子はない。
百合がどこでこの店がはやっているという情報を手に入れてきたのかはわからないけれど、少なくとも目の前の状況を見る限り、その情報はでたらめであるようだった。
僕が店に入ると、マスターはあの頃と同じようにアイスピックで氷を砕いていた。
そして、僕の姿を確認すると、ひどく懐かしそうな顔をして、「お久しぶりですね」と言った。
「ああ、そうだね」
僕が答えながらカウンター席に腰を下ろすと、百合もゆっくりと僕の隣に腰を下ろした。
マスターは三年が過ぎた今でも僕のことをしっかりと覚えていたのか、何も言わないままにグラスにラガーヴリンを注ぎ、そっと僕の前に置いた。
それから、百合の方を向き、言葉をかける。
「ご婦人は何を飲まれますか?」
「この店には人気のカクテルがあると聴いて来ました。それをお願いできますか?」
「"雪の夜"ですね。承知いたしました」
マスターはそう言うと、シェイカーの中にアマレットといくつかのリキュールやら果汁やらを入れてそれを丁寧に振ると、ショートグラスにゆっくりと注ぎ、百合の前に出した。
「このカクテルはある夜の、一組の男女からヒントを得て私が作ったカクテルです」
マスターが言った。
「聴かせてください」
百合がニコリと微笑むと、マスターはニヤリと不敵な笑みを浮かべて、ちらりと僕の方を見てから、語り始めた。
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