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プロローグ
「はぁはぁ…」
もう何時間走ったか分からない。いまどこにいるのかさえも…
「あははは…もっと逃げてぇ。じゃないと楽しみが無くなっちゃう。遅いよぉ」
後ろから声が聞こえる。
冷たく、心のこもってない声。
怖い、恐ろしい。そのことしか頭になかった。
大通りに出る。そしたらあいつは、派手に出来ないだろう。
「あっ」
『ドタ』
転んでしまった。
何もないところで。石ころ一つないこんなところで。恐る恐る、足元を見ると左足のズボンが、真っ赤に染まっていた。
ズボンを捲ると、脹ら脛(ふくらはぎ)に赤黒い穴が空いていた。
撃たれたと気付くまで、そんなに時間はかからなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ。なんだよ。何で撃たれてだよ」
叫ぶが、その声は虚空に消えていく。
立ち上がれない。痛みは全くないのに。足が地面に貼り付いてしまっているような感じだ。
「なんだよこれ。畜生…」
逃げることが出来ない。そう考えると、恐ろしくなり硬直した。
「彼方くぅ~ん。もう逃げなくていいのぉ。ふふふ、もう逃げられないの間違いだったね。足大丈夫?ふふふ…あははは」
声がどんどん近づいてくる。
心拍数が上がる。そのせいで傷口からは絶え間なく血が溢れていた。
「みぃ~つけたぁ。滑稽(こっけい)だね。あのプライドの高い彼方くんが地面に這いつくばってるなんて。ふふ、いいわ、そのまま這いつくばって許しを請いなさい。その後右腕を置いていけば完全に許してあげる」
にんまり笑った。でも眼は笑っていない。
「ふざけんな、誰が這いつくばるか。なんでてめえに許されなくちゃいけねぇんだよ」
「…そう。じゃ、死ぬ?」
その声は今までに比べてかなり冷たい声だった。
「………やってみろよ。人殺し。さっきあいつを殺したみたいに、俺も殺してみやがれ」
啖呵を切ったが誰からでもわかるくらい震えていた
「そう…残念。あの子が悲しむわね。じゃあね、来世でまた会いましょう。来世でもあの子に手だしたらまた私が殺してあげるから。じゃサヨナラ」
ナイフを振り上げたのが見えた。
[ああ…もう死ぬのか…]
眼を瞑り、深呼吸をした…なんでこんなことになったんだろ…
あの時のことが走馬灯のように頭に浮かんだ。
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