第二十三章~頽廃~

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クスクスと笑い続ける目の前の女にイライラは募るばかり。 早く美優に会いたいという思いが強くなる。 美優に会って、美優の姿を見て癒されたい。 彼女を早く抱きしめたい。 「婚約はしません。あなたとは。」 「そうですか。」 明らかな拒否の言葉なのに目の前の女は笑う顔をやめない。 その余裕な態度が癪に障る。 「では。」 これ以上話をしても時間の無駄だと俺は席を立つ。 それを引き止めることなく未だ笑みを浮かべる女に俺は鳥肌が立つのを感じながら外に出る。 外の空気を肺いっぱいに吸い込みながら携帯を出し、竹内に終わったことを連絡する。 竹内が来る間、俺の脳内は美優のことばかり。 噂を耳にしてないか。 今日の事、西条瑠璃子のことを報告すべきか。 が、美優が気がついていないのならそのまま何も無かったことにすればいいかと考えるのをやめる。 今は彼女の顔を見たいことだけを考えることにする。 しばらくして竹内が運転する車が到着し、社へと帰る。 やっとこの苦痛の時間から逃げられる。 「はぁ・・・・」 今日何度目かのため息を吐く。 「お疲れですね。」 先ほどと同じ言葉をかけてくる竹内。 俺はそれを受け流す。 「ああ。社に帰ってくれ。」 「かしこまりました。・・・・・社長。」 ピクッ! 急な呼びかけに驚きを隠せない。 「美優さんを悲しませないでくださいね。」 俺の反応を無視するかのように話す竹内。 美優さん・・・ 竹内が亡くなった妹と美優を重ねるように気にかけていることは知っている。 知っているだけに心が軋む。 「わかってる。」 その言葉を返すのが精一杯だった。
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