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社に戻り、秘書室の扉の前で佇む俺。
先ほどまで二人きりで女と会っていた背徳感からかなかなかドアを開ける事ができない。
「俺はなにしてるんだ・・・・」
馬鹿な考えを払拭しドアを開ける。
「お疲れ様です。」
聞こえてきたのはもう一人の秘書の声。
「お疲れ様です。社長。」
やっと聞こえた愛しい人の声に俺の心も少し綻ぶ。
「ああ。」
いつもの受け答えにも今日は癒される。
「あ、社長。この件なんですが。」
感傷に浸っている間もなく仕事の話をしてくるのは、藤堂だ。
ここは会社。
今は勤務時間。
だから仕方が無いのだが、なぜかガッカリする俺。
「あ?ああ。これは・・・・・。」
藤堂の話に指示を出していると・・・
「社長。西条様という女性の方からお電話です。」
俺の思考が一瞬固まる。
あの女会社まで。
いくらなんでもやりすぎだ。
「顔が怖いぞ、雅。」
藤堂の言葉に受話器を睨んでいたことに気がつく。
「西条って、あの?」
「ああ。」
「解消したんじゃなかったの?」
「したよ。解消を解消してくれ、だとさ。」
またため息が漏れそうになる。
が、部下の前で上司らしからぬ態度は見せられない。
重い足取りで社長室へ入り、電話を取る。
「お電話変わりました。」
「あ、雅臣さん。」
「なんの用でしょうか。」
俺の声はきわめて冷たい。
優しく話しかける義理も無い。
「私の元へ来てくれる気はないのですか?」
はっ!今更何を言っているんだこの女は。
「ありません。」
「では、父にお願いすることにします。」
「何をですか?」
なんとなく想像はつく。
「私の元へ来てくださらないのなら、取引を中止させていただく旨を。」
クスクスと笑う彼女の声に虫唾が走る。
やっぱりそんな事か。
俺からしてみればそんな事大したことではない。
し、西条との取引はこちらの方が格上。
そんな事、会社同士の関わり合いに関わっていない彼女が知るわけも無く。
日本屈指の西条グループがわが社より格下なんて事知りもしないのだろう。
なんと世間知らずなお嬢様。
「なんと言ってもらっても結構です。では。」
電話口の向こうで何か言っていたが、構わず俺は受話器を置く。
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