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下に降りると書斎の様な部屋があった。
壁一面に本棚がありそこにはこの部屋の住人には似つかわしい、文系の学でも読むのを諦めそうな難しそうな本の数々があった。
「まさかお前がこの本を読むわけじゃないだろうな?」
学が言った。
「俺は本は嫌いだ。」
子供は、はっきりとそう言った。
それなら何故こんなに本に囲まれた部屋に住んでいるんだ、と学は言いたくなったが、心の内を見透かしたように子供は続けた。
「ここは元々俺の部屋じゃない。」
なるほど。
「お前は自分ばかり質問して俺の質問に答えてない。俺の家で何をしているんだ。」
子供は学を一睨みして壁に張り付くようにして置いてあるソファに座った。
「別に何かをしていたわけじゃないんだが。」
本当にそうだ、何かを盗ろうと思っていたわけでもない。
ましてこの家を外から見たら泥棒でも唾を吐くだろう。
「じゃあお前は人の家に何の用もなく勝手に入るのか。」
子供の言っていることは正論だが、馬鹿にされている様で学は声を荒げる。
「こんなところに人が住んでいるなんて誰も思わないだろ!」
子供は明らかにうるさいと言うように耳に人差し指をいれて首を振った。
「住んでいないと思えば入ってもいいのか。」
学はむかついたが、言い返す言葉が見つからず子供を睨むことしか出来なかった。
「まったく・・・。」
子供はため息混じりにそう呟いた。
「座りなよ。」
子供は学が立っているのが気に入らないようで、学の近くにある椅子を指差して言った。
「あ、あぁ。」
学は言われて慌てて座る、そして子供の言うことに従ってしまったことに気恥ずかしさを感じた。
「あ、そうだ、名前は?」
なるべく焦りを見せないようにしたつもりだったが結局かんでしまった。
「名前?不法侵入の次はプライバシーの侵害か?」
(このクソガキめ・・・。)
「それに人にものを尋ねるときは自分からだ。」
「・・・俺は坂江学。お前は?」
「俺は名前なんて持ってない。」
「大人をからかうのもいい加減にしろ。」
「今度はからかってなんかないさ、名前は本当にないんだ。」
子供は真剣というわけでも、遊んでいるという様子でもなかった。
別にどうでもいいことのように面倒臭そうに言うだけだった。
「じゃあなぜ名前がないなんてことをいうんだ。」
気になって仕方がない学はすぐに言葉を返す。
「俺は捨て子だ。」
冷たく言い放った子供に学は何も言い返せなくなった。
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