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「ツバメくん……」
ぴくんっ。
突然声をかけられ、しらず体がビクついた。
正直
気配はまるで感じなかったので、本当に驚いたのだが……。
誰なのかは『声』でわかった。
ファスナーを閉めるのを止め、振り向くと
先程外光をとりいれるために、一枚だけ雨戸を開けておいたが
何故か
その光の差す縁側にその人は立っていた。
だが
ガラス戸を開けた音はしない。
玄関も昨夜から施錠したままで、まだ今朝は開けていない。
この離れとなっている古い家屋の
縁側でもあり廊下にもなっているそこに
やはり
『気配なく』たたずみ、
何故か心配げに見つめてくる。
僕は
「あ。……サトウさん。
おはようございます。
えっと、どうされましたか……?こんな朝早く」
びっくりしながらも
相手が『サトウ』さんであることに、ホッとして至極明るく返せた。
サトウさんなら『カギ』は、意味はない。
サトウさんは、あまり背は高くない。60代の女性だ。
白髪交じりの糸目の美人で、少しほっそりとした顔立ちをしている。
派手でもなくどちらかと言うと、いつもキチンとした格好を好む人だ。
白いエプロンも清潔で、今までシミがついているところを見たことがなかった。
今日は明るさを抑えた黄色味の着物を着ている。
そのサトウさんが
ばつが悪そうな、困ったような顔で僕に告げた。
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