冷たき玻璃(ハリ)の朝

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` 「出立の時間がね。 早まってしまったの……」 と言うと、珍しく小さなため息をこぼす。 「予定より早く【外】からの迎えの車が、もう来てしまっているのよ……」 僕はそれを聞き、無意識に置き時計に目をやる。 朝の6時5分前を、さしている。 予定は9時のはずだったのだが……。 嫌でもピンッときた。 「そうですか……」 内心ため息がでる。 最後の最後まで、嫌がらせをしてくる。 誰がやったのかも検討が、ついているが…… それに対して反論を起こす気は全くなかった。 ふと、 気付くとサトウさんは、小首を傾げ、右手を頬に添えながら、僕を見つめていた。 イヤ……違う。 その視線は、 僕を通り越し……僕も振り向いた。その先。 短くなったろうそくと 静かに天井へと上る、白い煙り そして……ボストンバックから見えている2つの写真立て。 僕の大切だった2人 イヤ……違う。 『大切であった。と、思われる……オボロゲナ記憶の中に生きていた2人』 遠い……ずっと遠い『あった』ハズの大切な記憶。 大切であればこの写真のように、自分の中で何度も思い返せるだろうに……。 ナゼカ ボンヤリとも『思い出す』事ができないその頃の2人との記憶 声も 語らったことも 触れあったことさえも 時々、僕に…… 本当にこの僕に 写真から笑いかけられるこの二人との記憶が 『本当にあるならば』 何度も思う…… 思い出したいと―――… 眉を寄せ、無意識に 思いだそうとするも……。 ―――ズギキッ――― 目の奥に 白いハレーションの花火が散った。 ズキッ―…ズキッ―…ズキッ―‥ 「……ン…」 思い出す行為に 決まって現れる頭痛。 わずかに前屈みになり呼吸が乱れた。 でも最近……気づいたことがあった。 一瞬。 ……何かぼんやりとしたハッキリとしない記憶の波の中で いつからだっただろうか 頭の中いっぱいに むせかえる匂いが……。 .
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