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背中をさする。
薄い手のひらの存在感に
……ハッとした!!
一瞬でむせかえる匂いが消えた。
幻のようにハッキリとしないが。
瞬間在ったように感じた。
誰かからかの呼び声も……
抱き締められたような温かさも……
つかむ前に、それらは記憶の肌の上をころりと転がり
雪の様に消えた。
顔を……上げた
サトウさんが緊張した顔で、僕の背中を優しくさすってくれていた。
その左手には、ずっと変わらない僕を気遣ってくれる優しさが感じられ
……胸が痛かった。
この里に来た頃は、味方は
『サトウさん』ただ一人。
何度いやな思いをして、
何度泣かされたことだろうか
そのたびに『何度も』サトウさんは嫌がりもせず小さな僕を抱きしめてくれた
声がかれて
泣き疲れて
ただボンヤリするだけの僕に
何度も何度も
優しく背中をたたいた
『ぽんぽんぽん』と
『大丈夫』だと何度も
何度も
何度も
僕は……
『思いだそうとしても思い出せないこの行為』
が
今さらすでに、何の意味のないことだと……気付いていた。
それでも……よりどころがほしかった。
生きていた
愛していた
思われていた
僕は……血のつながりを求めていたのか
僕は、肩に置かれたサトウさんの右手に、自分の左手を重ねると……一瞬きゅっと握りしめる。
そして思い出したこと
僕は、久しぶりに『大丈夫』の合図を返した。
サトウさんの右手に
ぽんぽんぽん……と軽くたたいた。
気がついてしまうなんて……
僕は寂しかったのか。
だから何処かへこの身を流されまいと、無意識に何にでもすがってしまうのか……
「もう」
サトウさんは小首を傾げて
「……よかったの?」
僕は……ひとつだけ自分の性格で気づいたことがある
「はい……」
僕は顔と体をまっすぐに起こし、サトウさんに体ごと向き直った。
僕は大切な人の前では意地っ張りになることに。
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