きみがため まもるため

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薄藤色の開かれた襖の先に、自身の身を進ませた。 そこは十畳ほどの室内で。 アンジュは、その向こう側にある白い襖の側に身を寄せ正座。 一拍おき 頭を下げた。 「只今アンジュ戻りました」 隔てた襖の向こうから、知った気配が近づき、音もなく敷居を襖が滑った。 「お入りくださいませ。サトウ殿」 シロウが、更に襖を開ける音と、邪魔にならないよう脇に寄った布のすれる音。 そして 「こちらにおいで。アンジュ」 静かに落ち着いた男性の声が響いた。 「御意に」 アンジュは頭を上げ、目を伏せた状態で……スクリッと、立ち上がると、こわれるまま椀をシロウに渡し、そのまま、中央へと進み出る。 チャプッ――――… アンジュの登場に驚いたのか、ひれを揺らし銀色の魚影が沈む。 波紋がゆらゆらと広がった。 その先。 外に向け開け放たれていた障子の向こうから、涼やかな風が、清らかな光が室内で遊んでいる。 それを背にし 白い寝具の上に胡座(アグラ)をかき、アンジュを見つめているその人が 「ツバメの容態は?」 アンジュが目前で膝(ヒザ)をおる前に真っ先に問いかけてきた。 やや前のめりで……。 ` 「先程意識がもどり『薬』を服用後……急な昏睡状態で高熱を出してます……」 アンジュの言葉を聞き、一様に息をのむ面々。その中に 「そんな!!………」 震える声が響いた。 青ざめた顔で、戦慄いてる。 「イサ……」 「高熱って、昏睡?何で!!?……シノノメは回復してきておるのに。何でツバメだけ……何故じゃ」 震える肩。俯いたまま。 嗚咽を繰り返すイサの。 握り締めて白くなった両手を、 シノノメは自身の右手でそっと上から覆う。 「イサ、ツバメは強い子だ。信じよう」 優しい声。 顔を上げ、シノノメを見つめたイサは、涙をこぼし……また俯いた。 「他には?」 声をかけられた方、右側に顔を向けるアンジュ。 きちりっと居住まいを正しながら、やや険しい表情の女性。 トーコだった。 「発熱以外は……特に。」 「呼吸は?何も無いんだな」 「念の為『さんそぼんべ』は外してません。荒いですが、自発呼吸はしています」 すいッと――トーコの目線は動いた。 「だ、そうだ。これからどう治療するつもりか?……グァ・バラ殿」
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