きみがため まもるため

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ずるズルッ――。 隣の開け放たれた空間に異音が響く。 そこには三つの箱膳の前で、豪快に茶掛け飯を食らう小男がいた。 「いやぁ。!偶(タマ)には、若い女が給仕の面倒をみてくれる朝食もいいもんだねぇ~~この煮物おかわりできる?」 「はッハイ!ただいま」 「……グァ・バラ殿」 急いで煮物を取りに向かった女中の背中を、ニマニマとした顔で見届けていたグァ・バラは、涼やかなトーコの声に振り返った。 「んぁ?。あぁ何だって?」 ポリポリッと漬け物を咀嚼(ソシャク)する。 憎たらしい男を、睨みながらアンジュは口を開く。 「覚醒後『薬』を服用した。それなのに……今は高熱を出し昏睡している」 「は?……意識が戻ったの」 「……そうだが」 「ほぉお!!」 何故か目を見開き ズズッ――――。 勢い、汁椀を傾け煽(アオ)った後、箸先で煮物の根菜類をつまみ上げる。 光に透ける芋を、しげしげと眺め 「このまま目覚めず『毒死』かと思ったが……回避しましたか」 と、呟いた。 四方から視線が向く。 グァ・バラは、淡々と語りだす。 「此処で二人にやった解毒中心の『血清治療』実は……『あの子』の場合だけ効くかどうか微妙だったんですよぉ」 一気にヒヤリとした空気が生まれた。 「ワタシが言うのもナンだけど『八盗蜘蛛』って難儀な生き物でしてねぇ……知ってます?。毒を持つのは雄だけで実は雌は無毒体。……『腹の中の子』も元々毒を持ってないんです。それは何故か」 煮物を持った右手が空を指す。 「『毒』は、成長過程の食物事情による『体内合成』で蓄積し『武器』となります。しかし彼らの毒は、『幼体』の生命を脅かす程、進化したんです。そこで疑問。何故『雌』は『無毒体』なのに平気なのか?」 チャプッ―― 天井にうねる鱗。 無音。小男以外誰も何も発しない。 「過去に、幼体に同じグループの雄の毒をあてがう実験記録がありまして……『結果』雌の幼体しか生き残らなかった。それが体液から『抗体』が発見される切っ掛けとなり……はムッ」 むしゃむしゃと数度噛むとごくっと飲み込む。 「特に、数度の出産経験のある雌ならさらに『強い抗体』を持つ『雌』に成ることが分かった。その理由は……お分かりでしょう」 ニヤニヤ笑い見つめる先には、表情を変えないトーコが見つめ返し。 小さくため息をこぼすように口を開く。 `
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