8人が本棚に入れています
本棚に追加
`
頭を上げ、皆が見つめてくる視線から逃げるように
目線を……そっと下げた。
「抗体を持つ血清は我らには有益な『毒消し』ですが。
ツバメ様の体質には、強すぎると判断されたのでしょう。
『ショック死』を避ける為に、通常より少なめに与えたと思われます。
だから、完全な『毒消し』として作用はせず『弱毒化』で終わったのでしょう。
でも『弱毒化したウィルス』を、体内に放置し続けるのも危険。……だから」
いったん口を止め、顔を上げると。
シロウはグァ・バラを見つめた。
数秒の沈黙。
シロウがすっと視線を反らした。
「もしもツバメ様が意識を戻したときに、グァ・バラ様は……ヒトの持つ免疫力を『補助』するための『薬』を調合したのでしょう。
拝見しておりましたが、あまり我々には馴染みのない代物を調合しておられたご様子。
結果『高熱』が出たのは、ツバメ様の体内温度を上げることで『弱毒化したウィルス』を攻撃しているものと考えられます」
チャプッッ――――……
銀色のヒレが水面を叩き陰影の波紋が広がった。
皆、ポカンとした顔で畏(カシコ)まる少女を見つめるなか、
箱膳に頬杖をつき何かをジッと思うていたらしい小男は、口を開く。
「ボクは……きみを少しばかり侮っていたようだ。
……なかなかどうして君は優秀だねぇ。
あぁ……そうか」
細く月のような目が、少女を射すように見つめたグァ・バラは。
「君は『翠梢(スイチョウ)』の娘か」
と、ぽつり呟いた。
その目に懐かしさを宿して……
途端、弾かれたように顔を上げたシロウ。
「……なぜ……」
訊ねたわけではない。
ただ
純粋に驚きにみちている目を向けた。
「懐かしいねぇ。キミ似てるよ。
アイツ……あれからいつ逝った」
風が室内に優しく吹き込んだ。
シロウの目には微かな動揺が見て取れたなか。
「半月だ。……最期まで独りで……最期は誰にも看取られず。
亡骸は丘に埋葬した」
トーコの乾いた声が空気に響く。
「『これが私の運命』……ハハハ……そうかぁ」
グァ・バラが呟く。
シロウを見つめて。
「……聡いのに妙なところで涙もろい、鈍くさい奴だったが……。
そうかやはり逝ってたか」
ほんの一瞬。
虚空を見つめ
「『医学』に関しては頑固だった。割り切れば楽だったのにねぇ……ばかなやつだよ」
どこか悲しく、苦く笑った。
`
最初のコメントを投稿しよう!