きみがため まもるため

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` 「トーコには今回の治療には、お主以外の適任者が居らぬとして 暗宮から無理を承知の上でつれだしてもらった…… 私も経歴を聞き、お主以外おらぬと思う。 的確な治療と 豊富な経験 そして忍耐と想像力 それは信頼するに値する。 だから、他の医者には任せなかった。 だからこそだ……言わしてくれ」 そのままイサに目線を向けたシノノメ。 居住まいを正したイサはそのまま畏まり 「……グァ・バラ」 「なんです……」 毒気を抜かれながらも、返事を返す。 「先程は……我が悪かった」 長い黒髪の小さな頭がグァ・バラに向かい垂れた。 「……感情のままお主を責め立てた事は、あまりにも不条理すぎた。 わざわさ来てもらった身なのに 詫びらせてくれ。本当に、すまなんだ」 隣に座るシノノメも、居住まいを正し頭を垂れる。 「私も……今回の礼が遅れたな。有り難う。 お主のおかげで助かった命……大切にする」 無音。 衣擦れの音さえもしない。 「もういい。 ……色々と気持ち悪い。やめろ……飯がまずくなる」 肺から吐き出された見えない固まりを握りつぶし……ねじ込むように白米を箸でかきこむ。 顔を上げる二人。互いに顔を合わしグァ・バラを見た。 「清宮に来てくれて有り難う。 力を貸してくれて有り難う。 ……グァ・バラ」 イサが優しく呟いた 「……チッ…」 体をくるりと縁側に向けて黙々と食事を続けるグァ・バラ。 「お待たせいたし…ア!……」 グァ・バラは憮然とした表情のまま。 女中から乱暴に煮物の皿を取り上げると…… 「……フンッ!!…」 黙々と芋やフキを咀嚼しだした。 女中はいきなり機嫌の悪い小男の様子を、困惑の表情で見つめるなか チャプッ――― 『お館様』 突然。 天井から声が降ってきた。 『アカメです。お話中、失礼します』 一斉に見上げると、天井の水面から、 ぼんやりと赤く光る魚が逆さまに顔を出していた。 「どうした?」 シノノメが問いかける。 『たった今、例の子供が目を覚ましました。……そのご報告を』 `
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