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スクッ――!!。
跳ねとぶように立ち上がったのは、水色の着物姿。
だが、
先程入ってきた襖に振り向きかけ……動きを止めた。
「ぁあ……そうだった」
そう、つぶやくと……ゆるゆると再び腰を下ろした。
イサが怪訝な表情を見せた。
「アンジュ?どうした。目覚めたばかりのツバメが心細い思いをしておるやかもしれぬ。行って安心させて……」
「今、……二人の様子は」
アンジュはアカメに問いかけた。
『子供は先程と違い顔色、体調もいい。女官長は言葉少なだが、子供の世話をかいがいしくしている』
「……ありがとうございます。アカメ様」
『それでは私は戻る。お館様失礼する』
「……ぁあ、報告ご苦労だった。アカメ。
それと……女中確か、ミツと言ったな。これから大事な話をする。
……下がってもらえるか」
「ハッ!ハイ。わかりもうした!!」
チャプッッ――――……
赤い魚影が黒い蓮の影に消える。
同時に女中も下がった。
「アンジュ……お前」
イサが右手を伸ばし、アンジュの左腕を掴む。
「……知っておったのか?」
張り詰めた空気。
それを壊すように
「……左門頭になって十年ですよ」
アンジュは、かすれるように囁いた。
「あの人が血族だと……調べ済みです」
寂しく笑うアンジュ。
ギュッと掴むのはイサの指。
震えながら。
「すまぬ……。
ツバメには、血縁者を会わすことは禁じられていた。
アンジュには、すべてを任せて……迷惑のかけっぱなしじゃった。
本来は我らの問題。
この里に関わったばかりに……申し訳ない」
「……その事をツバメは」
シノノメがたずねた。
が、
「……知りません」
トーコもシロウも、三人のやりとりを黙って見つめていた。
「……ふふっ」
突然。
思い出し笑いをするアンジュ。
「先程気付きましたが、あの二人……顔は全く似ていないのに……
中身は『よく似てます』」
さも、可笑しそうに。
「看病は自分が女官長に頼みましたが……最初は承諾してくれませんでしたよ。
ツバメ君を心配するあまり、部屋の前に一人居残って、それなのに
――女官長としての意地をはるんです。
知ってましたか。ツバメ君もかなり意地っぱりな処があるんです。
無理をして
傷ついても
大丈夫って『笑う』んです」
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