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「あの二人似てます……。
くやしいけど……」
心の中の何かを吐き出すように……ゆっくりと息を吐き、その目をイサに向けた。
「それに……これが最初で最後ですから」
「……最初で最後?」
気になったのだろう。
一人、怪訝な声を上げたのは箸をとめ、首だけ巡らして見ていたグァ・バラだったが、
「……グァ・バラ……」
物憂げな表情のアンジュに名を呼ばれたことに気付き、そのまましかめっ面で
フイッ……と
視線を外す。
明るい午前の輝きを放つ庭を見つめながら、最後の一切れを咀嚼すると、ゆっくり箸をおろす。
「さてと……久し振りに美味い朝食、頂いたし……そろそろ帰りましょっかぁねぇ~」
座ったまま伸びをした。
「再度ツバメの診察は、しなくていいのか?……」
シノノメが聞いてきた。
「いや、症状聞く限りほぼ完治していますよ。
わざわざ
ワタクシの診察はしなくても大丈夫でしょう。
気になるようでしたらお抱えの医者でも呼ばれたら?
ほら、意識無いうちはいいですけどねぇ……あの子ワタクシを……覚えているでしょ?。
昔のワタクシを」
側の火鉢(ヒバチ)にかけられていた鉄瓶(テツビン)の柄をフキンでつかみあげ、さっさと自分で茶を入れる。
「ヘタに再会して恐怖でトラウマでもおこされたら……面倒でしょ?。だから」
口元をニヤつかせ、くいっと熱い茶を飲んだ。
突然。
まわりが、ざわめいた。
グァ・バラは無意識に視線を戻し……
「ブッ!?―――ゲホッゲホッ!」
「アンジュ!」
「……サトウ殿」
グァ・バラは、まさかの光景に噴いて。
イサやトーコ、シノノメやシロウは度肝をぬかされた。
「グァ・バラ殿……」
あれほどキライ。怒りをぶつけた相手……。
グァ・バラに向けて
両手を揃え
ただひたすらに。
頭を下げるアンジュの姿があった。
「貴方のしたことは許せない。
でも
ツバメ君に代わって御礼を……言わせて下さい」
ポタリッ……ポタリッ。
安堵の涙を畳にこぼしながら、震える肩を止めもせず……
「ありがとうございました。助けてくれてありがとう
本当にありがとウ……ウッ…フッ…」
そこには皆が知っている『左門のアンジュ』ではなく……無力な『子を思う母親の姿』があった。
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