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その後、苦虫を噛み潰したような顔をした医者から、随分と簡単な診察をされて……。
「何でこうなる……」
湯船につかりながらつぶやく僕がいた。
ポチャ――ン……
水滴が落ちる音。
滝のようになだれくだる湯の反響音。
白く輝く石を彫り込んだなめらかな曲線の岩風呂。
見上げるが湯気で曇って天井がわからない。
「色々、思い出してきたけど……ここまできて風呂はいる羽目に成るとは……」
「……ツバメ…さま」
立てかけた屏風浦(ビョウブ)の向こうから、いきなり声を掛けられた。
「は!ハイ!!。何ですかコウヤさん」
ビビって声がうわずった。
「着ていたツバメ様の服の洗浄は終わりました。此処に置いておきます。……着替えの手伝いはいらないですね。
それと、差し出がましいですが。なるべく病み上がりには長湯は控え、程々に……」
「あ。ハイ!!分かりました」
わたわたしながらザブッと潜った。
コウヤさんの言葉を聞いて、数分後。
風呂場から、ソッとのぞき込むと、屏風浦の裏に先程は無かった浅い乱れ箱が置いてあった。
さっきまで着ていた藤色の寝間着……浴衣は無くなっていて、代わりに
「ああ。良かった……」
ホッとした僕がいた。
サトウさんが僕に用意してくれていた服が、折り目正しくキチンと置かれていた。
置いてあった肌触りのいい布で、体を拭き、それを首にかけたまま。
下着とチャコールグレーの細身のパンツを履き、黒のバックルを絞めると……
背もたれのない椅子に、くにゃりと座り込んだ。
そして前屈みになり
ハァ――――……。
ナゼカため息が出る。
何だかイロンナコトに、巻き込まれすぎて、疲れてしまった。
「まだ……【里】から出てもいないのに……」
誰にともなくつぶやいた言葉が消えるなか
ふと気付く。
目の前には小さなテーブル。そこに、先程と同じ水差しが置いてあった。
手に取り、湯呑みに空けて飲んでみた。
染み渡る甘さ。
ホッと一息ついて
振り向いた。
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