8人が本棚に入れています
本棚に追加
`
「どうしました?」
振り向いたそこには、何十となく御簾が下げられていて
その手前の一枚に
ぼんやりとした人影が浮かんでいた。
しかし
その人影は身じろぎひとつなく、反応なく立ちすくんでいた。
「……コウヤさん?」
「申し訳ありません……」
糸が切れるように
ゆっくりとしゃがみこみ
コトリッ―と何かを床に置くと、僅かに御簾を巻き上げ
スッと箱を滑らしてきた。
「先程の洗浄した品の中に、ひとつ入れ損ねてしまいました……」
「あ?」
立ち上がって近づくと、乱れ箱の中に、見慣れた黒いアンダーシャツがあった。
「ぁ。ありがとうコウヤさん」
身をかがめて、しっかりとした厚手の黒いシャツを手に取る。
「……お召し替えが終わられましたら」
御簾越しの言葉に顔を向ける。
うっすらと浮かぶコウヤさんの姿は、後ろ向きでこちらを向いておらず……
否
僕は、コウヤさんの様子が先程とは違う
と、
小さな違和感を感じた。
「お呼び下さい……」
何十もの御簾を巻き上げながら、その向こうに消えた時。
僕は漸く気がついた。
コウヤさん
声が……ないていた?。
「此処は段があります。お足元にお気をつけください……」
数分後、そう言って僕の前を歩き導くコウヤさん。
あの後、
僕は頭を乾かして、アンダーシャツやベストなどを着込むと、恐る恐るコウヤさんを呼ぶ。
再度、現れたとき……泣いていた素振りは無く……。
僕の気のせいだったのか?。
内心首を傾げる僕を、庭の見える別室に通したコウヤさんは、僕に朝食を用意してくれていた。
僕はどちらかというと食は細い。
ましてや早朝に簡単な食事をとっていたのに、ナゼカお腹が空いている自分に驚く。
それでも軽めに済まして満足する僕がいた。
食事を終え一息ついた僕を一別すると、
「参りましょうか……」
「え!。ぁ……ご…御馳走様でした!」
そう言って立ち上がったコウヤさんの後を、慌てて追いかけた。
そんなこんなで、連れて行かれる先の事など僕に分かるはずも無く。
`
最初のコメントを投稿しよう!