きみがため まもるため

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` 『ツバメ――アイして』 むねのなかが あまく、うずいて ざわざわして とおくで ギュ――ッと だきしめられる。 ボクがいて なきたくなった……ぼくがいて。 こんなの、しらない。 こんな『感情』 しらなかったから。 どうすればいいの……。 「ツバメ?」 音が戻り、気がついた。 知らぬ間に 息をつめて うっすら涙が浮かぶ。目をシバタク。 混乱してる……。 あれは――夢。 だ。 違う? これ見た。 覚えてる。 夢。違う。記憶。 しっかりしろ。 「少し……思い出しました」 わずか息を吐く。 「……気分が優れぬのか」 イサ様の気遣う声。 しっかりしろ。 感じるのは。 心配。 そんな皆の視線。 「……シノノメ様の、お体の方は?」 記憶の中に負傷したシノノメ様の姿を思い出した。 「大丈夫だ。ツバメは?同じ治療をしたのだが……」 治療?。 あの機嫌の悪い医者だろうか?。 僕も、同じ治療を?。 「知らぬこととはいえ、僕はソノコトの御礼を言ってません。 シノノメ様、有り難うございました。 あの……それで、先程のお医者様は今どこに……」 シノノメ様が、サトウさんにちらりと目線をくれたまま。 シノノメ様は口を開く。 「簡易の診察と、毒の治療をした医者は別人だ」 僕は 「えっ?……あ。そうなんですか」 呟くだけで精一杯だった。 「忙しい奴でな。治療を終えたらサッサと帰った……礼なら気にするな。私からも言ってある。 だから」 フウッと笑った。 「気に病むな」 コトリッ 視線を落として黙りまくる僕の前に 白い、小さな手が蓋付きの湯呑みを置いた。 「あぁ。そう言えば」 シノノメ様が呟いた。 「ツバメが倒れた直後。 シロウが応急処置を施したのは知っていたか?」 「……ぇ?」 僕は顔を上げて白い手の人をみあげた。 「それは適切でな。私はシロウから『揺らすな』と、咎(トガ)められたぞ」 「……ぁ……」 シロウは顔をひきつらせ、 「差し出がましい事を……もうし…訳ありません」 褒められることに馴れていないのだろう。 「ツバメが助かったのはシロウのおかげでもある。有り難う」 「私には……勿体無い御言葉」 堅く、険しい顔で言いよどんだ。 僕は、 シロウの横顔を見上げ…… 「シ…ロウ……」 溢れ出すそれを、止められず。 `
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