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「ツバメ……実はな」
シノノメ様の声に、ギクシャクと顔を向ける。
「私は、先程の八盗蜘蛛の騒動の直前に
【奥の院】にいる、トーコに
あることで
会いに行った……」
【奥の院】
僕にとって
耳なじみのない初めて聞く言葉で
「トーコには、【外】にいた当時の
カオルの遺品を、預かってもらっている
そのなかに……」
シノノメ様が、
僕を真っ直ぐに見つめ
口を開いた。
「カオルからツバメに
『預かりもの』がある……」
ブルリッ
寒気が走った。
シラズ
目線が落ちる。
思いがけない
言葉に
ふるえが隠せない……。
【遺品】
その言葉から
力をなくす感覚を
知った……。
しんでしまっている……。
わかっている。
知っている事なのに
改めて
思い知らされた。
『二度と、けしてあえない』
と、言うモノに……。
「ツバメ」
シノノメ様の声に再度、……顔を上げる。
僕の顔を見つめ……
めずらしく
眉間にしわを寄せた。
「受け取ってやってくれ……。
『カオルが望んだ』ことだそうだ」
シノノメ様が、トーコ様に視線を向ける。
トーコ様は頷くと突然手のひらに小さな包みを『出現』させ……そっと僕の前に置いて
手を……離した。
僕の手のひらより少し大きめの
長方形のもの。
それが
「手に取れ。ツバメ」
皆、
それを見つめている。
誰かが
抑えきれない動揺が混じる
叫び声をのんだ
音が聞こえた。
白い縮緬(チリメン)の布地に、たくさんの赤い椿の花が描かれたソレが
長方形の何かをギュッと包んである……。
ちがった。
僕は気がついた。
気がついてしまった。
描かれていたのは
『一輪だけ』で……
「それは、カオルの血だ」
得体の知れない鳥肌が立った。
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