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ツバメはトーコの言葉に固まり
「ぁ……。」
ノロノロと顔を下げ
「わかりました……。
ごめんなさい……
トーコ様……」
力のない声で
詫びるツバメに
「ソレは……どうする?」
トーコ様がうながす
僕は
「……下さいますか」
離したくなかった。
ぎゅーっと
自分の胸元に抱き込んだ。
「……持って行け。
これで
話は終わりだ……シノノメ」
「もう。帰られますか……」
「ぁあ……。後のことは」
「……承知しました。
……コウヤ【奥の院】の外門まで
お送りを……コウヤ」
「……ぁ…はい。あ。……イサさ…ま?」
「いや。我が行こう……コウヤはツバ……」
「なりません!……」
「しかし、コウヤ……」
「要らん」
ごちゃごちゃと互いに話し合っていたイサとコウヤに
「わざわざ、女官長と院妃の見送りなぞ要らん」
あっさりと突っぱねた。トーコに。
少し疲れた顔のシノノメ様は苦笑ぎみに言う。
「……お気遣いありがとうございます【緑樹医】殿」
「野暮なまねは好かんだけだ【元老院首座】」
そう言うと立ち上がり
「達者で。ツバメ
『もしも』
また……
いつかまた、あえた時には……」
そのせりふに驚いた顔で
見上げた僕に
ニッと笑いかけた。
「酒を酌み交わせる。いいオトコになっておれ
その折りは
いろいろと……話そうぞ」
それだけいい。
シロウが開けた。襖の向こうに消えた。
「ツバメ……今は
『過去』の事より
『自分』の事に意識を向けろと
トーコは言いたいんだ」
シノノメ様は小さくそう言われた。
一生
ではなく
今は、聞くな。考えるな
と
言うことだ
『過去だけにとらわれるな』
ツバメはそう理解した。
「ツバメ。そろそろ行こう」
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