誘惑

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バスの一番奥に座る俺達の周りには、殆ど人がいない。 最終だから、無理もないか。 「なぁ、佐伯…」 「はい」 外を見ていた佐伯は、千晴の声にスッと顔を向けた。 酔いが覚め始めきた千晴の目に、改めて佐伯の顔が映る。 …よく見たら、結構イケメンだな。 「お前、さっき俺に彼女いないのかって聞いたけど…お前はいないの?」 頭一個分違う後輩の肩に、ちょこんともたれかかる。 ちょうどいい高さに、眠気が襲ってきた。 もたれかかる俺に何も言わず、佐伯は前を見たまま口を開いた。 「一週間前まではいましたよ…でも振られちゃいました」 酷く寂しげな声に、千晴は彼の肩から離れ顔を上げた。 「え、めっちゃ最近じゃん。なんで?」 俺は思わず聞いてしまったが、不謹慎かと思い「…ごめん」と呟いた。 .
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