止まって

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 春うららかといった様子の温かい静かな公園で俺が読書をしていた時、遠くの方から足音が凄い速度で近づいてくるのを感じた。  何の音かと思って不思議に思った俺が読んでいた本を閉じて顔を上げると、向こうから凄まじい形相で汗をだらだらと垂らした小太りの男が走ってくるのが目に入った。 「や、や、いったいなんだ?」  その男の必死な形相があまりにも恐ろしく、俺は読んでいた本をほっぽり出して慌てて立ち上がると急いでその場から逃げだした。 「おうい、そこのひと! 止まってくれよう!」 「馬鹿め。止まれと言われて止まるやつがいるか」  俺が逃げ出したのを見てとった男が俺に向かって声を投げかけてきたので、俺は後ろを見もせずにきっぱりと言い放ってやった。  男が何に追われているのかは知らないが、どうせ碌な事にはならないだろうと俺は確信をしていたのだ。  大方何らかの厄介事に追いかけられていて、それを俺に押し付けようと言うのだろう。確信のあった俺は、絶対に止まるなと自分自身に言い聞かせてひたすらに走った。  だが男もしつこく、諦めるそぶりを見せずにより一層汗を流しながら追いかけてくる。
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