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都から遠く離れたその地に、ごくごく小さな村がございます。 春になれば色とりどりの花が咲き、夏になれば水田は青に染まる。 秋になれば黄金色に輝く稲穂が頭を垂れ、冬になれば雪に覆われる。 そんな小さく美しい村でございます。 その村のすぐ傍に、決して高くはない、だが、人を寄せ付けない山がございます。 その山では、春のある晩不可思議な出来事が起こるという。 ――満月の夜、山が一晩で桜色に染まる―― 一斉に咲き誇った桜は、 明くる朝にはその身を全て散らしてしまう……。 その不可思議な出来事に恐れ戦いた人々は、いつの日からかこう呼ぶようになりました。     『狂乱の桜』 しかし、恐ろしいと言われるその桜は、元々は普通の桜と何ら変わらぬ物でございました。 ある春の夜を境に、一夜限りの花を咲かせるようになったのでございます。
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