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一刻ほど歩いた頃でしょうか。
突然娘は歓喜の声を上げるのでございました。
「あ! あんな所に!」
娘は遂に捜し物を見つけたのでございます。
薄紅色の手拭いが木の枝に引っ掛かり、風にその身をはためかせております。
それを見た娘は、喜びで輝かせたその瞳を一瞬で悲しげに曇らせてしまいました。
「あんなに高い所に……」
手拭いは木の枝に引っ掛かっているだけで、今にも風に乗って飛び立とうとしているではございませんか。
「また風に吹かれたら、今度こそ見失ってしまうわ……」
その娘は、山の麓の村の長の大事な宝でございました。
もちろん木登りなどしたことがございません。
娘は暫しの間、早くに亡くした母の形見を悲しげな瞳で見つめておりました。
しかし、娘はその瞳に強い意思の光を宿し、遂にその木に手を伸ばそうとしたのでございます。
その時、娘は気づいたのでございます。
目の前に聳え立つ大木の高い枝の上に、腰かけている者がいる事を。
その者は紅の衣を被り、その顔は隠れていて見えません。
しかし、その者がどのような者かもわからないまま、娘は声をかけるのでございます。
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