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「あの、そこの御方。 申し訳ございませぬが、その枝の手拭いを取っては頂けませぬか?」 「……」 その者は何も言葉を発しません。 聞こえていないのでは、と思ったのでしょう。 娘が再度口を開いた時でございます。 その人物はゆっくりと動き出し、娘の大事な形見を枝から外したのでございました。 そして、そのまま高い木の枝からその身を躍らせたのでございます。 「きゃっ……!」 小さな悲鳴が上がり、その場に軽やかな音とかすかな風が舞い上がるのでございました。 舞い上がった草の片が収まり、娘はゆっくりと閉じていた目を開けると、その目に飛び込んで来た物に喜びの声を上げるのでございました。 「……! 母様の手拭い! 良かった……」 涙ぐみ、手拭いに頬擦りをする娘を目の前の人物は黙って見つめておりました。 そして……。 「……用が済んだのなら即刻立ち去れ。 ここはお前の様な者が来る所ではない」 そう言い残した人物は紅の衣を翻し、娘に背を向け立ち去ろうとするのでございました。 しかし、娘はその背をひきとめるのでございます。 「お、お待ちくださいませ。 御礼もろくに申し上げないまま帰るわけには参りません。私は鈴と申します。 貴方様の御名をお聞かせ願えませんか」 娘の必死の嘆願にその者は歩みを止め、頭から被っていたその衣を取り去り振り向いたのでございました。 すると……。
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