素直な気持ち

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「1003円からお預かりします」  絶望。  天国の頂から奈落の底に墜落したわ! どうしてくれんじゃこの気持ち。「から」はいらねえだろ! それと「お預かりします」は「頂戴します」でええんじゃ!  平成ベイビーは私が憤懣しているのをよそに涼しい顔でお釣りを返してきた。こやつ……仕事はどうだか知らねえがモテモテだろうな。その格好いい容姿で特別待遇か何か受けてるんじゃねえか? それが本当だったら店長の底が知れるぞ。  店員がレシートとお釣りを出している間に、弁当が真ん中辺りに入っている不安定な袋を手に取った。 「60円とこちら、レシートのお返しになります」  苛立ちに手が震えながらもなんとか受け取る。……脳内文句を言うのは疲れた。もうどうでもよくなってきた。早く出よう。ただでさえ残業で体が疲れきってるのに、こんなことで心も疲れてたら世話ないよ。 「ありがとうございました」  さっきまでの抑揚のない声はどこへやら、爽やかなその声に思わず振り返ってしまった。くたくたになっていた体に気力が横溢する。  私のばか。どんだけ素直な体なんだよ。どんだけ純粋な心なんだよ。君のことを好きになっちゃったじゃんか。
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