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誰もがそう判断した。
あとから聞いたら清水も後ずさりしていたらしい。
久住 楓だけが。
誰もが身の危険を感じ慌ててる現場で、楓だけが冷静に、“ロードスター”のドリフトを目で追っていた。
「・・・・・・曲がる」
動きが詠めたと言っていいのか。
楓は“ロードスター”の曲がるのポイントがハッキリと詠めた。
逃げる人々が肩に当たろうとも。
楓は足でしっかりと大地を踏み締め、“ロードスター”の動きを目で追った。
「・・・・・・飛び込むならここだッ」
次の瞬間、楓のスレスレを“ロードスター”が擦れ違った。
つんざくような音で鼓膜が震えた。
飛ばされた砂利が肌を突き回した。
リアスポイラーもロールバーもまる見えの、完全な後ろ向き状態。
風が身体を摺り抜けて、直接心臓に吹き掛けられる気分だった。
ほぼノンブレーキの直ドリ。
振りっ返しで当てたカウンターのみを頼りに、その“ロードスター”は楓達の前からコースへと消えていった。
叫ぶギャラリー。
「殺す気か! バカヤロ!」
「D1じゃねえんだぞ!」
歓声を上げるものもいたが、大半は怒りを投げ掛ける者の声で溢れかえった。
明らかに道路のアウトラインを狙って攻めた奇襲劇であり、下手すればグリップしきれずギャラリー側に突っ込んでいたかもしれないこの状況では、見る側の怒りを買うのは当然の結果だ。
下手な奴なら。
言ってしまえば、先に攻めていった大排気量車たちならそうなり兼ねなかっただろう。
この“ロードスター”は、いったいどんなトリックを使ったというのか。
スピードも、キレ角度も。
先に走って行った連中とは比べものにならないくらい、衝撃だった。
アドレナリンが身体中に回り、目に焼き付いた光景を何度も脳がリプレイし、心身がともに硬直。
感動すら憶えさせられていたのだ。
「あっぶねー。一事はどうなることかと・・・・・・」
勇ましく“GT-R”に乗ると言っておきながら、“ロードスター”が来る前に逃走を謀った清水。
楓はつい5分前までの無関心な表情をひき掃い、清水の両肩を手でがっちりと押さえマジマジと見詰めて言った。
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