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「今の見たかッ!? 曲がったぜッ!? タイヤ左に向けて右に曲がりやがったぜッ!? 何だよアレッ!! スゲエよ!! スゲエの見ちまったよ俺ッ!!」
清水が引いていた。
楓の輝かしい笑顔に完全に引いていた。
楓は、自分でも何を言っているのかわからなかった。
いつの間にかあの“ロードスター”の走りの虜になってしまっていたようだった。
ただ心の重んじるままに言いたいことを言う。
あの“ロードスター”に乗っているのは、いったいどんな奴なんだ、と。
「なぁッ。あれにいったい誰が乗ってるんだッ!? お前知り合いかッ!?」
「待てッ! 落ち着けよ気持ち悪いッ! 俺はまだただのギャラリーなんだから、チームの人と知り合えるわけないだろッ」
「クッソッ!」
楓は膝をついて残念がっていた。
「・・・・・・なあ、楓。どうしちまったんだよ?」
「・・・・・・俺にも分からねえよ」
そんなにショックの大きなことだったのか、楓はその場でしゃがみ込み何やらブツブツと言っていた。
すると、どこやらか。
「小僧ッ。あの“ロードスター”に乗っとるのは、代垣っちゅう奴や。知らんへんのか?」
どこやらか関西弁で、楓の問いに答えが返ってきた。
金髪の渋顔にグラサンと、見るからに威圧感を漂わせる風靡の男が、楓と清水の隣に立っていた。
「い、いいえ。すみません。コイツ峠今日がはじめてなんでッ」
男から危機感を感じた清水が、騒ぎに繋がらないよう仲介に入った。
「はーん・・・・・・」
「?」
男がこちらに凝視してくるのに、楓はンッと言葉を濁す。
「まぁええは。小僧。あの“ロードスター”見て、お前どう思った?」
男からのいきなりの質問に固まる楓。
どう思ったと、急に聞かれても。
初めて夜の峠に来てドリフトというものを見て知って、まだ1時間弱と経っていないそんな楓に、そんな質問をされても。
「・・・・・・行くぞ楓。こーゆーのとは関わらない方がいい」
清水が帰ろうと促してきた。
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