楓【PART.1】

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  「今の見たかッ!? 曲がったぜッ!? タイヤ左に向けて右に曲がりやがったぜッ!? 何だよアレッ!! スゲエよ!! スゲエの見ちまったよ俺ッ!!」  清水が引いていた。  楓の輝かしい笑顔に完全に引いていた。  楓は、自分でも何を言っているのかわからなかった。  いつの間にかあの“ロードスター”の走りの虜になってしまっていたようだった。  ただ心の重んじるままに言いたいことを言う。  あの“ロードスター”に乗っているのは、いったいどんな奴なんだ、と。 「なぁッ。あれにいったい誰が乗ってるんだッ!? お前知り合いかッ!?」 「待てッ! 落ち着けよ気持ち悪いッ! 俺はまだただのギャラリーなんだから、チームの人と知り合えるわけないだろッ」 「クッソッ!」  楓は膝をついて残念がっていた。 「・・・・・・なあ、楓。どうしちまったんだよ?」 「・・・・・・俺にも分からねえよ」    そんなにショックの大きなことだったのか、楓はその場でしゃがみ込み何やらブツブツと言っていた。  すると、どこやらか。 「小僧ッ。あの“ロードスター”に乗っとるのは、代垣っちゅう奴や。知らんへんのか?」  どこやらか関西弁で、楓の問いに答えが返ってきた。  金髪の渋顔にグラサンと、見るからに威圧感を漂わせる風靡の男が、楓と清水の隣に立っていた。 「い、いいえ。すみません。コイツ峠今日がはじめてなんでッ」  男から危機感を感じた清水が、騒ぎに繋がらないよう仲介に入った。 「はーん・・・・・・」 「?」  男がこちらに凝視してくるのに、楓はンッと言葉を濁す。 「まぁええは。小僧。あの“ロードスター”見て、お前どう思った?」  男からのいきなりの質問に固まる楓。  どう思ったと、急に聞かれても。  初めて夜の峠に来てドリフトというものを見て知って、まだ1時間弱と経っていないそんな楓に、そんな質問をされても。 「・・・・・・行くぞ楓。こーゆーのとは関わらない方がいい」  清水が帰ろうと促してきた。
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