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すっかりその気な総司に対し、魅龍は焦燥感を隠せない。
魅龍の父親は、齢五十三にして剣道範士の称号を持つ、凄腕所の話じゃ済まない那由多家最強の人物なのだ。
そして一家一のケチである。
妻の燕はやり手のキャリアウーマンなので食いぶちには何ら困っていない筈なのだが、五十路を目前としていながら世界を飛び回る彼女の代わりに家計の管理を行う孝龍は、自身の倹約を重んじる性格も相重なってってか、お金には相当五月蝿いのだ。
そんな父親の前に総司を連れていって、一晩彼を泊めろと頼んだ日には…。
…絶対に殺される。
魅龍は生きた心地がしなかった。
「だから無理だって。
申し訳ないけど、他をあたってくれ」
自分のやっていることが随分と冷たいことだとは理解しているのだが、流石に命は惜しい。
ここはさっさと立ち去るのが吉だと、魅龍が踵を返そうとしたその時だった。
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