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背後からした声に、ルチルは振り向いた。
低くも高くもない声は、しかし少し幼く聞こえる。
「アンバー」
ルチルが振り向いた先。
ボロボロのマントを纏い、民族衣装のような紋様のある服と白布のズボンのアンバーがいた。
腰には大剣があるのだが、服装は至って普通のせいか、多少浮いて見える。
旅人なのだから剣を持っていて変ではない。
だがその大剣は装飾が見事なもので、どちらかと言えば騎士の持つ剣に見えた。
「食糧なら俺が確保しておくからよ、今日は休もうぜ?」
ルチルが意外に怖い、などと聞き流せないことを言っておきながら、本人はさも自然に話を逸らす。
ルチルは笑顔を作った。
それは引き攣った、凄みのある表情となる。
「アンバー?」
「ごめんなさい」
名を呼んだだけで、アンバーは即謝罪。
ルチルはまあいいか、と納得し頷いた。
「じゃあ、宿に行きましょう」
「やっぱり怖いじゃねーか……」
「ん?」
「宿はあっち。予約したからよ」
振り向いたルチルから視線を逸らしアンバーは前を歩き出す。
ルチルは彼の悪態に気付かなかったのだろう、黙って彼の後に続いた。
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