◆1

3/20
前へ
/742ページ
次へ
 背後からした声に、ルチルは振り向いた。  低くも高くもない声は、しかし少し幼く聞こえる。 「アンバー」  ルチルが振り向いた先。  ボロボロのマントを纏い、民族衣装のような紋様のある服と白布のズボンのアンバーがいた。  腰には大剣があるのだが、服装は至って普通のせいか、多少浮いて見える。  旅人なのだから剣を持っていて変ではない。  だがその大剣は装飾が見事なもので、どちらかと言えば騎士の持つ剣に見えた。 「食糧なら俺が確保しておくからよ、今日は休もうぜ?」  ルチルが意外に怖い、などと聞き流せないことを言っておきながら、本人はさも自然に話を逸らす。  ルチルは笑顔を作った。  それは引き攣った、凄みのある表情となる。 「アンバー?」 「ごめんなさい」  名を呼んだだけで、アンバーは即謝罪。  ルチルはまあいいか、と納得し頷いた。 「じゃあ、宿に行きましょう」 「やっぱり怖いじゃねーか……」 「ん?」 「宿はあっち。予約したからよ」  振り向いたルチルから視線を逸らしアンバーは前を歩き出す。  ルチルは彼の悪態に気付かなかったのだろう、黙って彼の後に続いた。
/742ページ

最初のコメントを投稿しよう!

149人が本棚に入れています
本棚に追加