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 あまり広くはない街なので、アンバーが予約したと言う宿にはすぐに着いた。  例にもれず赤い屋根の2階建て。 「ルチル、ほれ」  宿の前に着いたと同時、アンバーがルチルの頭に長いフードを被せる。  小麦色のそれは、物語に出てくるような魔法使いが被るフードを連想させた。 「何、これ?」 「フード。毎回宿に泊まるので一悶着するだろ? 髪さえ見えなきゃスムーズに行くかと思ってさ」 「なるほど? 買ってきたの? わざわざ」  ルチルとアンバーが出会って、ちょうど2週間が経っていた。  その間、街に宿泊したのは数回だが、その度に2人はルチルの髪のせいで宿に泊まるのでさえ四苦八苦していたのである。  倍の金額を請求されることがほとんどだった。 「まあ目茶苦茶安いもんじゃないけど、今後を考えりゃましだろ」  アンバーはため息混じりにそう言う。  自らの意思で切った髪を隠すような真似をされたルチル、しかし彼女は怒るでもなく頷いた。 「遠慮、させてたのね。ありがとう、アンバー」  ルチルの言葉に、アンバーは気まずげに顔を背ける。
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