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空が色を失い、藍に染まり星が瞬く。
「今日は、月が細いか……」
ぽつんと夜空に浮かぶ三日月より細い月。
白い輝きは遠く、それを宿の外に出て見上げるアンバーは目を細める。
今から酒場に向かうのだろう。
ボロボロになったマントを翻し、アンバーは夜道となった街路を歩く。
こうして。
酒場に向かうような、とりあえず正常な生活。
自分がそんな、正常に戻れるなどと、今の今まで思いもしなかった、と。
頭をもたげるは、贖罪か後悔か。
「……世界の、果て、ねぇ」
行くのだと。
迷いすら知らない、けれど幼い瞳だった。
年齢を尋ねれば18だと答えたルチル。
アンバーとは5歳の差。
彼は現在23歳。
たった5年の違い。
けれど、己の心はこんなにも。
汚い。
「それでも、行くんだ」
覚悟。
アンバーは吐き出すように呟き、闇に紛れるように暗がりに消えた。
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