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 果実酒の甘さが、口の乾きにやけに染みた。  ベタベタとした甘さに、眉をひそめる。 「苦労はしておくものさ。若いうちはね、幸せばかりだとその後が辛い」  アンバーの気を知ってか知らずか。  男性がぽつりと呟いた。  彼の手元にある麦酒が、泡さえ失い寂しげだ。 「違いない」  否定出来ないその言葉を肯定し、アンバーは果実酒を一気に喉に流し込む。  地元ばかりの人間ばかりなら、あまり期待出来ないと思いつつ、せっかくなのでアンバーは本来の目的を口にした。 「ところで、世界の果てって、知ってるか?」 「そりゃあ、有名な言い伝えじゃないか。世界の果てには全てがある。そこには、財も富も、命も全て、って」  世界の果て。  それは、この大陸に根付いた神話と共に、色濃く伝わる場所。  この世界の終わりより先にある果てに、全てがある。  失ったもの、全てがそこにあるのだ、と。
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