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それは私が仕事から帰宅し、鍵の束から自室のそれを探しながらエレベータのゴンドラから降りた直後だった。
体が自然と自室に向かうように、足先が右側に向いて進む。
まだ鍵が見つからない私は下を向いたまま、角部屋にあたる廊下の最奥へ。
私の履くブーツのかかとがコンクリートの地面を鳴らす音よりも、ジャラジャラと絡む鍵の音に顔をしかめていた。
けれど、
「あっ、た……」
私は途端に目を見開いた。
その瞬間に自室の鍵が見つかったことは忘れ、
「……な、」
私は自室の扉の前にうずくまっていた
「……久しぶり」
もう何年も会っていない姉の夫の姿に、
「なに、何しに来て……」
私は驚きのあまり手にしていた鍵の束を地面に落としてしまった。
互い距離を詰めることなく見合ったまま、私の問いに答えない義兄。
黙ったまま今にも泣きそうな彼に向かって、震える唇を開こうとした時、
「……どうしよ、」
「え?」
同じく声の震えた義兄に、私は首をかしげ、
「ミキ、死んじゃった……」
「……え?」
姉の訃報に、また、目を見開いた。
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