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それは突然の交通事故だった。
大型トラックが、歩道を歩く姉に向かって突っ込んできたとの事。
道路にブレーキ跡がない事から、運転手が居眠りしていたことがわかった。
姉は、即死。
状態は、とても口に出来ないと、義兄はソファに深く腰を降ろして頭を抱えて呟いた。
私はキッチンのコンロにかけていたケルトが沸く音に気付いて、静かに立ち上がる。
私が離れるのに気付いたのか、彼は私がマグカップに継いだ緑茶を持って戻るまでは俯いたまま黙っていた。
「熱いから、ゆっくり飲んで」
「……」
私が彼の前にある白いローテーブルに膝ついてマグカップを置くと、それをちらりと見て「ありがと」と呟いた。
「ネネは?」
「……実家に預けてきた。お義父さんとお義母さんは、」
「寝込んでるでしょ。父さん達、姉さん溺愛してたから」
私は苦笑して、膝立てていた脚を崩して、フローリングの上に腰を降ろした。
実家とは疎遠状態。
ある出来事をきっかけに、私は単身家を飛び出して以来、ずっと1人で生きていた。
その出来事とは、
「それでここには……!?」
「……」
「義兄さんっ!!」
突然身を乗り出して、私の体を抱きすくめる。
私は咄嗟に押しのけようと両手で必死に胸板を押すも、
「やだっ、放し……」
そこは男、弱っていても、かなわない。
私は俯いてなけなしの力で抵抗したが、
「……っ」
「っ!」
ムリだ。
「ミホ……っ」
そんな泣き声で、名前呼ばれたら、
「……」
「……んっ」
拒むなんて、できないよ……。
私はじっとただ見つめてくる義兄の、
「んっ、ふぅっ」
震える唇を黙って受け入れた。
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