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◇
今から7年前になる。
大学進学を期に上京していた私に、訃報の知らせが届いた。
『ねぇちゃんどうしよっ、父ちゃんが……母ちゃんがっ』
警察の霊安室に駆け込むなり抱きついてきたのは、まだ小学生の弟、コウヘイ。
私は起きた事態が信じられず、ただ横たわる両親の亡骸に呆然と立ち尽くしていた。
私に会いに行くために、車で都市高を走行中に輸送トラックに後ろから追突されたとのこと。
運良く助手席に座っていたコウヘイだけが、軽傷で生き残った。
私は、直ぐ大学中退することを選んだ。
大学側は私の成績なら学費全額免除でも構わないと言ってくれたが、
『……ねぇちゃん』
『大丈夫よ。アンタを1人にさせないから。施設になんて、養子になんてやるもんですか』
私は両親が遺してくれたコウヘイを、手放すわけにはいかなかった。
「コーちゃんはね、私の宝なの。そんなあの子を、あの男はっ」
コウヘイにカミングアウトされたのは、丁度1年前だった。
大学に通いだして間もなかったあの子が連れてきたのは、初めての友達でもなく、彼女でもなく、
彼氏だった――。
彼を紹介するコウヘイは心底嬉しそうで、そんなあの子を見ていたら、ショックな態度は取れなかった。
あの子自身、私が中退し、がむしゃらに働いてきたことをずっと気にして生きてきた。
だから、本当に幸せいっぱいなコウヘイを咎めることが出来ない。
何より、あの子自身も友達と遊ぶ時間も惜しんで、私の代わりに家のことこなして、私が通っていた大学に特待で入学するぐらい努力してきたから。
「あの男はっ、あの瞬間私たちを踏みにじったのっ!だからっ!」
「だから、許せなかった?」
「そうよっ!」
丁度個室席でよかった。
「許せなかった……」
顔を上げて見つめるその先が、
「酷い顔だ、」
薄い膜を帯びてぼやけていて。
そう思ったら直ぐに頬に温かな感触が、私の目じりを拭った。
「君をそこまで追いつめるなんて、よっぽどいい男なんだな」
「……シュン、スケ?」
その含みのある物言いに、私はただ首を傾げるだけで、
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